中国医薬大学訪問から見えた台湾中西医結合医学の発展と問題点

一、はじめに
 2007年夏、盛克己先生(千葉市医師会)と私は再び台湾の中国医薬大学を訪問した。本報告は中国医薬大学中医学院を中心に紹介し、同大学学長黄栄村教授の会見を述べて、台湾中西医結合医学の発展と問題点及び中国中医薬学界との交流状況を報告する。

二、中国医薬大学
中国医薬大学は1958年に台中に設立され、台湾では著名な西洋医師・中医師養成大学である。附属病院は、中西結合医療を目指し、最先端の医療器械を揃え、近代化された病院である。現在、大学では医学院、看護学院、中医学院、薬学院と公共衛生学院の5つの学院に分け、7つの研究所を有し、13の修士課程と3つの博士課程を持つ医薬総合大学である。特に中医学院には、中医学部(8年制)と学士後中医学部(5年制)がある。その他、中国医学研究所、中西医結合研究所と鍼灸研究所を有し、台湾では最も歴史のある中医師養成大学である。

盛先生と私は、中国医薬大学中医学院の訪問は今回で2回目である。前回は、2000年夏に、臨床漢方薬理研究会のメンバー18名を結成した台湾学術研修団(団長・田代真一教授、副団長・筆者宮崎)の訪問であった。当時の謝明村学長の歓迎を受け、著名な立夫中医薬展示館、大学附属病院中医部門および中医部薬局を見学した。特に中医部外来は、中医内科、中医小児科、中医婦人科、中医鍼灸科など10科で構成されていた。伝統的四診と弁証論治を重視しながら、最新のコンピューターシステムを導入し、伝統医学の診療、教育、研究に当たっていた。

三、漢方討論会
今回の訪問は、双方の討論会を中心とした。漢方討論会の参加者は、中医学院のトップ副学長張永賢教授(西ドイツハンブルグ大学整形外科講座医学博士)、大学附属病院副院長謝慶良教授(日本九州大学脳神経病学講座と中国広州中医薬大学針灸推拿講座医学博士)を始め、中医部の科長達、主任中医師など数十名であり、大部分は中医師免許のほかに西洋医師免許も持つ中西医師の先生達であった。

演題1は、私が「日本漢方医学について―当院の治験例から見た漢方の治療効果―」と題した日本漢方医学の特色及び日本漢方医学と中医学との相違を説明した。また当院の治験例を提示しながら、日本漢方の治療効果を示した。
演題2は盛先生が「日常臨床における漢方エキス剤の運用―生薬末加味の応用―」と題して、臨床症例を提示し、漢方エキス剤の治療効果を高めるとともに、運用の幅を広げる工夫を講演した。
演題3は、中医小児科科長の張東迪助教授が「白血病の中医学治療」と題して、小児白血病の中医学治験例(西洋薬併用)を提示しながら、白血病に対し中医学の弁証論治の考え方と治療法を講演した。難治性小児白血病に対し、漢方薬の併用により、西洋医学の化学療法、免疫抑制療法などの副作用を軽減し、良好な治療効果を得ている。

 その後ディスカッションでは、日本漢方医学の「方証相対」と「漢方腹診」及び中医学の「弁証論治」などについて熱心な討論を行った。

四、黄栄村学長との会見
漢方討論会の後、張永賢副学長の案内で、黄栄村学長と会見した。友人である頼栄祥教授(台湾行政院顧問)と筆者・宮崎の大学同級生邱尚明副教授(同大学脳神経外科)も同行した。黄学長は台湾教育部部長(日本の文部大臣にあたる)を歴任、欧米にも広い人脈を持つ著名な学者である。

まず、学長は同大学の教育、研究、及び附属病院の現状を紹介した。同大学の三大発展目標は、1)同大学を国際的レベルに達する医薬総合大学への昇格。2)卓越した生物医学科学技術センターの建設。3)附属病院を世界に冠たる中西医結合医学センターを目指す。と説明した。

西洋医学での改革では、欧米の著名な医科大学・メディカルセンターと提携し、教育、研究、臨床など幅広い分野で交流をしている。また、膨大な資金を投入し、PET Scanner,Gamma Knifeなど最先端の医療器械を揃え、病院を近代化しつつある。さらに、「癌センター」「急性重症病と外傷救急センター」「神経医学センター」など専門治療分野を重点に発展させ、国際医療水準に達することを目指している。

次に、伝統医学の改革では、近年伝統医学人材の育成と中医学治療・検査機械の整備などを進めているが、同大学の一大特色である中西医結合医学の発展には、いくつかの問題点を抱えている。まず、伝統医学の教育では、中医学部は8年制で、中医学と西洋医学を並立させ、両方の長所を取り入れ、同時に学ばせている。卒業後は、中医師国家試験と、西洋医師国家試験を合格すれば、目標とする中西医師になれるが、中医学部は学ぶことが多すぎて、充分に修得しきれない事情もある。また、研究と臨床の面では、伝統医学は長い歴史と膨大な臨床経験に基づいて発展してきた医学であるため、現代医学のEBMの観点から見ると、客観的な基礎的・臨床的データーに乏しいという問題がある。その上、伝統医学の病因論、疾病分類、治療学など中医学理論の客観的解釈及び国際的統一も問題となっている。このように同大学の目指している中西医結合医学の発展には、いくつもの難点と矛盾を抱え、中西医結合医学発展の難しさを示してくれた。

会見の中で、盛先生と私に日本漢方医学の現状につき、意見を求められた。我々は、台湾伝統医学と日本漢方医学には、特に中西医結合の分野は、一致する点がいくつもあると説明した。実は同大学はすでに日本にある著名な薬科大学と提携し、研究の分野で交流している。さらに日本の医科大学における漢方講座との提携も視野に入れている。

最後に、台湾行政院顧問の頼栄祥教授は、最近北京で開催された中台両岸の医療のハイレベルな会議に出席し、そのハイライトを紹介した。台湾伝統医学の将来の発展は、中国中医学との提携を、どのように進めていくかが鍵であると指摘した。

中国医薬大学と中国中医学界との交流については、2007年7月中国広州中医薬大学の徐志偉校長と、同大学国際学院王洪g院長一行が、中国医薬大学を訪問し、両大学学術交流合作協議を協約し、これからは中医薬分野を中心に両大学の交流が期待される。また、数年前から、中国広州中医薬大学が台湾に分校(大学院を含む)を設立し、台湾との学術交流に重点を置いている。以下広州中医薬大学を簡単に紹介する。

五、広州中医薬大学
同大学は、1956年に設立。中国に現在ある61校の中医薬大学・学院の中で、最も歴史のある四大中医薬高等学府の一つである。現在学生は2万人あり、その内約3千人は大学院生である。中国全国中医薬大学の評価では、中医学一級学科総合水準の評価は全国第一位であり、中西医結合一級学科の評価は第三位であり、中薬学一級学科の評価は第六位となっている。附属病院は4つあり、総ベット数は7000床ある。その第二附属病院の一日の外来数は15000人であり、中国全国で外来人数が最多の病院である。同大学は、医学、工学、管理学、理学、経済学、文学、教育学の七つの学院があり、大学院を有し、修士課程、博士課程を持つ、中医薬学を中心とする総合大学である。特に中医学科学技術の発展に重点を置き、GAP,GLP,GCP,GMP,GSPなどの研究発展センターを設立している。

六、結び
今回、中国医薬大学の現状、特に同大学中医学院の発展を紹介した。また同大学学長黄栄村教授と会見し、同大学の発展目標、特に中西医結合医学の発展と問題点を見出した。この論文がこれからの日本漢方医学の発展にも参考になれば幸いである。

[付記]、私事で申し訳ないが、本論文を紹介された張栄賢教授と謝慶良教授と共に、2007年7月私が中国広州中医薬大学客員教授を拝命した。この機会に、これからも盛先生と一緒に台湾伝統医学の変貌を眺望しながら、中医学の発展も見ていきたいと思っている。

(市川市医師会会報平成19年冬季号)