中華民国中医師公会全国聯合会会館を訪問して

一、はじめに
 2008年の夏、機会を得て中華民国中医師公会全国聯合会会館を訪ね、林永農理事長(台湾中医師会会長に相当)と会見した。この十数年来、私は台湾行政院衛生署、大学、中医薬研究所を中心に、台湾伝統医学の行政・教育・研究・医療に関する進展を見てきた。今回、台湾伝統医学の第一線の医療を担う中医師会を訪ね、台湾伝統医学の現状と問題を探る。

二、中華民国中医師公会全国聯合会(以下、全聯会と略す)
 全聯会は1945年に中国重慶市に設立、75年台湾台北市に復会し、現在台湾全国22ヶ県市中医師会から選出された166名の代議員から組成された。全聯会の組織は会員代表大会の上に監事会、理事会、秘書處に分ける。更に理事会中心に常務理事会を組成し、その下に、会務発展委員会、学術研究委員会、継続教育委員会など13の委員会に分かれている。全聯会の会旨は「中医学術を研鑽し、医術医徳を発揚する。法令の推行と社会奉仕に協力する。会員の権益を保護し、中医学の発展を目指す。更に国民の健康を擁護し、中医医療の品質を向上する。」となっている。

三、台湾中医師の現状
 2008年7月台湾医師会統計によると、西洋医師は36,835人で中医医師は5,061人である。中医医師は全医師の12.1%を占め、台湾人口10万人当たり22人となる。ちなみに歯科医師は10,926人であり、中医師の約2倍となっている。台湾中医師の所属分布を見ると、1995年の全民健保制度導入前後から、中医病院は増設され、中医診療所も次々と開業した。2008年6月の時点で、中医病院数は23ヶ所、中医診療所数は3,069ヶ所である。更に2000年から健保医療の総額支付制を開始以来、大学病院を含む多くの総合病院に中医科77ヵ所が増設されている。台湾中医健保医療は混合診療制度を採用されているため、漢方エキス剤は保険扱いとなっているが、煎じ薬は自費となっている。08年6月の台湾中医医療機関経営統計によると、92.5%が健保で、7.5%が自費となっている。台湾中医健保医療の現状を見ると、外来医療が大部分を占めている。一方、中医健保入院医療は、まだ試行の段階である。08年台湾中医健保予算総額は、185億元であり、全健保医療総額の4.33%を占めているが、中医健保予算は伸び悩んでいる。しかし、中医健保医療サービスは国民から高い評価を得ている。

四、全聯会会館の訪問と林永農理事長との会見
 08年8月、友人である荘明仁中医師の案内で、台北県板橋市にある全聯会会館を訪問し、林永農理事長と会見した。台中県中医師公会李豊裕理事長(台中県中医師会会長に相当)と全聯会陳憲法副秘書長も同席した。会館は08年7月に新装オープンしたばかりで、高層ビルの11階にあり、広々とした空間で、立派な玄関はインドから輸入した大理石で装飾されている。中国伝統的内装の中に、最先端の設備を揃えた会館である。今回全聯会会館の改装資金調達、工事設計などすべて林理事長の尽力によるもので、強いリーダーシップを感じた次第である。

 最近の台湾伝統医学界の動きについて、林理事長が説明した。まず、行政が遂行した中医病院評価計画の実施により、中医病院の業務管理を強化し、中医医療の品質水準を高め、国民の安全な医療の確保に資している。行政院衛生署の発表した2004年度の病院評価の結果、合格した123教育病院のうち、73ヶ所に中医科を付設し、その中にはメヂカルセンター11ヶ所、区域教育病院36ヶ所、地域教育病院11ヶ所が含まれている。さらに05年、行政院中医薬委員会が「中医臨床教育訓練計画」を遂行し、11ヶ所の教育病院に「中医教育外来」「中医回診教育」を実施、3千数百人の中医師の卒後再教育を行った。また、中医健保医療の問題につき、林理事長が述べた。現在台湾健保医療は、総額支出制度の下で、外来医療の大部分を占めている。一方、健保中医入院医療はまだ完備されていない。中医健保入院医療の対象疾患も、脳卒中、小児喘息、小児脳性麻痺などに限定され、中国医薬大学と長庚大学の二つの中医師養成大学を中心に行われている。これから、台湾健保入院医療の環境整備を進めることにより、台湾伝統医学レベルの向上に繋がると林理事長は強調した。また、全聯会も外国伝統医学界との学術交流に力を入れている、最近では、07年10月、ブラジルサンパウロで開催された国際針灸医学会議に、代表団を派遣し参加した。さらにサンパウロ針灸医学会と姉妹協定を結び、学術交流を図ることになった。07年12月、台北で開催した14回国際東洋医学学術大会を、全聯会が共同主催し、12カ国から、千数百人の参加者と、320篇の発表論文を集め、成功を収め、全聯会の国際学会運営能力が高く評価された。

 次に、私は、日本漢方医学の特色を紹介し、日本東洋医学会と、東亜医学協会の活動を述べた。台湾側は、日本漢方医学の最近の進展、特に、EBMデーターから構築した漢方医学知見に注目し、高い評価を与えている。

 その後、台中県中医公会李豊裕理事長は、台湾中医専門医学会の活動を述べた。台湾中医学会は、西洋医学会のように、専門医制度はない。しかし、中医専門医学会は数多く設立されている。例えば、中医内科医学会、中医婦科医学会、中医小児科医学会、中華針灸医学会などがあり、定期的に学術検討会を開催し、学会誌を出版し、中医師の卒後研修に貢献している。また、李理事長は中薬薬材の毒性問題に触れた。最近では、朱砂など、数種の常用中薬薬材も毒性の問題で輸入制限の対象となったが、代用薬材がまだ見つからず、中医臨床治療上影響が出ている。

 最後に陳憲法副秘書長のインタビュウを述べる。陳副秘書長は、1985年台湾中医師特種試験に合格したあと、中医診療所を開業しながら、台中市中医師公会理事、全聯会理事を歴任し、現在全聯会副秘書長、台中市中医師公会常務監事に就任している。一方、陳副秘書長は十数年前より、東海大学・中興大学・勤益科技大学の中医学学生部活の指導教官も兼任、多くの大学生に中医学の奥義を伝授した。実は今回案内してくれた荘先生も、学生時代陳先生の教授を受け、一般大学卒業後中国医薬大学中医部学士後課程に再入学し、さらに中医部大学院修士課程を終了したエピソードがある。台湾中医学界には、このような徒弟制度のよさが残っている。荘先生によると、陳先生は、中医学理論だけでなく、中医臨床の経験も豊富で、数多くの難病治験例も持っている。台湾行政は、中医師の西洋薬処方を認めず、中医診療所でのレントゲン装置、低周波治療機械など、現代化医療機器の設置も禁止されているため、多くの第一線中医師は、陳副秘書長のように、伝統四診を重視し、中医学古典を中心に弁証論治を行い、高い治療効果を上げていることを知り、台湾伝統医学の臨床水準の高さを再確認した。

五、結び
 今回全聯会会館を訪ね、林永農理事長と会見した。全聯会の組織、台湾中医師の現状及び台湾伝統医学界の動きを見聞した。さらに台湾中医健保医療の現状と問題点を見出した。今まで、私は多くの台湾伝統医学界を代表する教授、博士、高官などを紹介したが、今回中医師会活動を牽引し、台湾伝統医療の第一線を担う中医師に注目したことにより、台湾伝統医学の実像を新しい角度から見ることができた。今後私は台湾伝統医学の発展が、台湾国民の健康にどう寄与していくか引き続き注視し、日本漢方医学と台湾伝統医学との架け橋になれば幸いである。

(市川市医師会会報平成20年秋季号)