漢方Q&A

宮崎瑞明
 目次    
高血圧 気管支喘息 女性の病気
アトピー性皮膚炎 不眠症 咽頭のつかえ感とイライラ
     
      
Q.高血圧に対し漢方治療の役割、効果と適応について教えてほしい 東京都江戸川区 46歳男性


A.高血圧だけでなく、糖尿病、高脂血症、肥満症、痛風などの生活習慣病に対して、漢方治療は有効な治療法の一つである。特にメタボリックシンドロームなどの複数の病態に対し、西洋医学では各々の疾患に対する治療が行われることにより、西洋薬の投与量は膨大となる症例は多い。しかし、漢方治療では、患者さんの総合的な病態に対応できるよう薬方を組み合わせ、複数の疾患に同時に治療できる。当院では十数年前より以来高血圧、糖尿病、肥満、痛風などの生活習慣病に対し積極的に漢方治療を行ってきた。

1.漢方医学における高血圧の概念
 漢方医学的には、「高血圧」は、どのような状態として把握されていたのか考えてみる。そもそも、漢方医学は検査機器のない2000年以上前の時代に体系化された医学であるので、高血圧という病名は存在しなかった。しかし、血圧が上昇した時に見られる、赤ら顔、イライラ、頭痛、肩こり、めまい、動悸、不眠などの随伴症状(漢方医学では「気」「血」「水」の異常に基づく症状の発現とされている)に対し、様々な薬方が使用されてきた。適切な薬方を選択し投与すれば、上記のような高血圧の随伴症状の改善だけでなく、血圧が上がる体質を改善し、心身全体の調和により、血圧も安定させることが可能である。

2.高血圧に対する 漢方治療の役割、期待できる効果と適応
 漢方薬は、西洋薬のような直接的な降圧作用は強くはないが、高血圧の重症度、リスク分類などにより、漢方薬の用い方や適用範囲が異なってくる。千葉市もり内科クリニック盛克己先生との共同研究「漢方薬単独でコントロールできた高血圧症例の検討」によると、検討対象は2003年7月、一ヶ月間に両院で加療した高血圧症例のうち、漢方薬単独で治療し、降圧目標を達成している57例(男性17例、女性40例。平均66,6歳)である。結果は高血圧分類では、軽症50例(88,7%)、中等症7例、重症0例である。リスク分類は、低リスク38例(66,7%)、中等リスク14例、高リスク5例である。投薬パターンは、当初から漢方薬単独治療群は32例(56%)、漢方薬と西洋薬を併用し後に漢方薬単独使用群は13例(23%)、前投与の西洋薬を中止し、漢方薬に切り替えたが群は12例(21%)である。随伴症状に対し、全例半分以上の改善を得たが、56例中50例(89,2%)はかなり改善以上の効果を示した。投与薬方の内訳は、七物降下湯16例、真武湯11例、釣藤散・黄連解毒湯各10例など21薬方に及んでいる。
 漢方薬による治療の適応としては、特に軽症、低リスクの高血圧症例に対し、漢方薬単独治療で、随伴症状の改善とともに良好な降圧効果を見た。勿論中等症、中等リスク以上の症例は西洋薬を中心に用い、漢方薬は降圧薬の減量、合併症の予防、随伴症状の改善などを目標に、積極的に併用を考慮しても良い治療法である。

3、漢方治療の実際
 高血圧に対する漢方治療は、患者さんの漢方的診断(『証』)に基づき、虚実、陰陽などの分類を行い、主訴及び高血圧に伴う随伴症状を考慮し、薬方を選択していくことが大切である。証を決めるに当たっては、日本では特に腹診の所見が重視されている。
 実証の場合では、大柴胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、三黄瀉心湯、防風通聖散、桃核承気湯などが用いられる。中間証の場合では黄連解毒湯、桂枝茯苓丸、女神散、釣藤散などが用いられる。虚証の場合では、加味逍遥散、七物降下湯、当帰芍薬散、防巳黄耆湯、九味檳榔湯、八味地黄丸、真武湯などが用いられる。特に真武湯は当院の頻用処方の一つであり、高血圧だけではなく、低血圧に対する有効方剤でもあり、高血圧・低血圧という、相反する病態をともに改善するという西洋薬には見られない漢方的特長のある薬方である。

4.養生について
 高血圧は、生活習慣病の一つであり、薬物治療ばかりでなく、減塩、運動、禁煙、節酒、適正な体重管理、などの総合的な生活習慣の修正は大切である。しかし、私が特に強調したいのは『気』の養生である。高血圧患者の中には、せっかち、怒りっぽい、くよくよなどの情緒不安定な人が多く、『気』の養生によりそれらの精神状態が修正されるだけで血圧が安定する例も多いからである。『気』の養生法はいろいろあるが、私自身の例として太極拳の鍛錬または散歩、適切な休養、趣味などが効果的である。あまり高度な目標を設定せず、無理せず余裕のある人生設計も大切である。

 
Q.漢方薬は喘息に効きますか? 東京都文京区 O.Sさん


A
.気管支喘息の罹患率は近年増加傾向し、特に小児喘息と高齢喘息が増加しています。その直接の原因はまだわかっていませんが、食生活や生活環境の変化、大気汚染の進行などが関与していると考えられます。

 最近、西洋医学における喘息の病態が解明されつつあり、新しい薬剤が次々に登場しています。特に吸入ステロイド剤を中心とした抗炎症療法の導入により喘息のコントロールが大変よくなっています。しかし、なかには慢性の経過をたどり、しばしば急性発作を繰り返し、日常生活に支障をきたす難治性症例もあります。特に小児喘息の治療では、低年齢児に対する吸入療法の困難性、さらにはステロイド剤の副作用として、成長・発達に対する影響などの未定の部分もあるため、用量設定と使用期間についてはまだ慎重であります。

 そのため、数千年の歴史を有し、副作用の少ない天然生薬を中心とした漢方療法に関心が高まっています。1998年厚生省免疫・アレルギー研究班が発表した喘息予防・管理ガイドラインの中に、漢方薬は喘息の治療薬の一つとして取り上げられ、特に軽症・中等症の喘息にはよい適応があると評価されています。

 喘息の漢方医療は、「同病同治」ではなく、患者一人ひとりの体質や病状に応じて方剤を選びます。一般に発作期は麻黄剤を中心に、慢性期には柴胡剤のほか、虚証に対して補剤が適応となり、気滞・気鬱などの病態に、安神剤が適応となり、また瘀血症に駆瘀血剤が適応となります。もちろん、ひどい急性発作の時、西洋薬を優先に用い、漢方薬は補助的投与を行ないますが、漢方薬は発作の予防・軽減、あるいはステロイド依存からの離脱のための基本的薬剤の一つとして期待されています。最近、特に喘息のような難治性疾患に対し漢方医学は、西洋医学に欠けた部分をカバーするという新しい方向に研究が進んでいます。

 しかし、喘息は根治させることが難しい疾患の一つです。患者さんは、よく自分の症状を認識し、生活習慣を見直し、かかりつけ医と信頼関係を作り、根気よく治療を続けることが大切です。

     
Q.漢方薬はどういう女性の病気に効きますか? 千葉市 S.Hさん


A.
最近、漢方薬は「古くて新しい薬」として注目されています。その理由は、漢方薬は体質改善や症状改善により、現代医薬品にみられない治療効果があるからです。漢方治療は、東洋医学的な診断法を用いて、その人その人に合った漢方薬を選び、治療を行います。

 女性の病気についても、漢方医学が得意とする分野の一つであります。一般的に漢方薬が効く女性の病気は、月経前緊張症、月経困難症、自律神経失調症、冷え性、低血圧症、便秘症、肥満症、更年期障害、不妊症、子宮筋腫などがあります。特に漢方治療法と西洋医学的治療法の併用により、治療効果を増し、副作用が減少する場合もあります。これらの症状にお悩みの方は、一度漢方専門の所へ相談してみてはいかがでしょうか?

     
Q.28歳女性です。小さい頃から「アトピー性皮膚炎」に悩んでいます。漢方治療は効果がありますか? 市川市 Y.Aさん


A.
「アトピー性皮膚炎」は、西洋医学でも治りにくい疾患の一つです。自分自身の体質と病状に合う漢方治療の効果が期待されています。

 アトピー性皮膚炎とは、強い痒みを伴う慢性湿疹を繰り返す疾患です。異物に過敏反応しやすい体質の人に起きるアレルギーの過敏反応です。さまざまな食べ物・ダニ・化学物質などの刺激により皮膚の炎症と皮膚のバリア障害起きて発症します。アトピー性皮膚炎に対し、原因・悪化因子の除去療法、ステロイド外用薬、抗アレルギー内服薬などを含む西洋医学的治療は進歩しつつありますが、根本的療法は未だなく、現状は対症療法が中心となっています。

 一方、アトピー性皮膚炎の漢方治療とは、本治療と標治療に分けて行ないます。
1)本治療とは、患者の体質的虚弱を調整することです。胃腸虚弱体質の場合、小建中湯、黄耆建中湯、四君子湯など用います。風邪をひきやすい体質の場合、小柴胡湯、柴胡桂枝湯などを用いる、など等。
2)標治療とは、患者の皮膚症状を陰陽虚実に応じてとることです。温・熱の強い場合、消風散、治頭瘡一方などを用います。膿疱や化膿した所見がある場合は、排膿散及湯や十味敗毒湯などを用いる、など等。患者さんの体質・体調に応じて適応漢方方剤を選び、良好な治療効果が得られます。

 一般に急性期・重症例に西洋医学を優先して症状を抑えます。慢性期・軽症中等症例には。漢方治療を中心に体質を整えるようにします。もちろん、アトピー性皮膚炎の治療には、薬だけでなく、日頃のケアも大事です。皮膚を清潔に保ち、動物性脂肪、香辛料、砂糖などを控え、過労、寝不足、ストレスなどを避け、規則正しい生活を送りましょう。

     
Q.神経質でストレスをためやすく、不眠症になることもあります。漢方薬は効きますか? 東京都江戸川区 37歳女性


A.
神経質な方、ストレスに弱い方、不眠がちな方など、いわゆる「心の病み」にお悩みの方に対し。漢方薬は効果的です。

 現代社会では精神緊張が多く、特に神経質の方はストレスをためやすくなります。このような状態が長く続くと、自律神経のバランスを崩し、心と体全体の不調を引き起こし、いろいろなストレス性の不調、特に神経質性不眠が発生するわけです。このような症状は、漢方医学の観点から見ると「気・血・水」のバランスの崩れ、特に気の乱れが原因と考えられます。この場合には陽気(代謝エネルギー)が病的に冗進し、心がアンバランスになるためにさまざまな症状が引き起こります。

 このような「心の病み」に対しては、自律神経の働きを調節し安神作用を持つ漢方で対応します。漢方では、体力のある方で、のぼせ気味、イライラ、便秘などを伴う場合には、三黄瀉心湯が用いられます。体力のある方で、のぼせ気味、イライラ、抑うつ傾向などを伴う場合には黄連解毒湯が用いられます。体力が中程度の方で神経過敏、精神不安定、悪心、胸やけなどを伴う場合には、半夏瀉心湯が用いられます。体力が低下している方で不眠、興奮、怒りっぽいなどの症状を伴う場合には抑肝散加陳皮半夏が用いられます。体力が低下している方で、神経過敏、精神不安定、手足の冷え、不眠などを伴う場合には、桂枝加竜骨牡蠣湯が用いられます。

 もちろん、漢方薬は西洋医学の抗不安薬、睡眠薬のように、直接的に脳神経に作用しないため、急速な効果が期待できませんが、漢方薬は全身状態を改善し、ストレスに対抗する気力を作り、睡眠のリズムを整えることになります。特に、神経質性不眠の方で、睡眠薬依存傾向になりやすい場合には、漢方治療がよく適応します。お悩みの方は、一度漢方専門のところに相談してみてはいかがでしょうか・

     
Q.53歳の女性。2ヶ月前より、咽頭のつかえ感とイライラ、精査するが異常認めず、抗不安薬服用するも効果なし。漢方薬が効きますか? 東京都中野区 M.Tさん


A.この病状は、西洋医学では「咽喉異常感症」と言い、消化器心身症の一つと取り扱われます。近年、精神をすり減らす現代の生活様式の変化に伴い、この病気が増加しつつ、抗不安薬で改善することもありますが、時に治療困難な場合があります。
 一方、漢方医学では、このような咽喉部の気鬱と気逆の病態を「梅核気」または「ヒステリー球」と言い、鎮静安神作用を持つ気剤、安神剤中心に用い良好な治療効果を上げています。体力が中程度の方で口苔、口粘、感情不安定、疲労倦怠などを伴う場合には、柴朴湯を用います。体力がやや低下している方で、感情不安定、抑うつ気分、月経異常、のぼせ冷えなどを伴う場合には、加味逍遙散を用います。体力が低下している方で、疲労倦怠、胸が詰まり・息苦しい、不眠などを伴う場合には、半夏厚朴湯を用います。当院では最近2年間、咽喉頭異常感症の半夏厚朴湯著効例8例を経験、昨年の東洋医学会総会にて発表しました。お悩みの方、一度漢方専門の所へ相談してはいかがでしょうか?